トップコラム【昭和100年を読む】田中角栄著『日本列島改造論』 今に通じる構想と提言

【昭和100年を読む】田中角栄著『日本列島改造論』 今に通じる構想と提言

田中角栄著 日本列島改造論 復刻版
田中角栄著 日本列島改造論 復刻版

昭和47(1972)年7月5日、田中角栄は佐藤栄作首相の後継を選ぶ自民党総裁選でライバル福田赳夫を退け、自民党総裁に選ばれ、第64代内閣総理大臣の座に就いた。総裁選直前の6月、田中が自身の看板政策をまとめ日刊工業新聞社から出版したのが『日本列島改造論』だ。

田中の掲げ推進した日本列島改造計画は、地方での地価の高騰を招いたなどとして挫折した政策との評価、イメージが強い。さらには田中が金脈問題で失脚し、ロッキード事件の被告のまま死去したため、その列島改造論は顧みられることが少ない。しかし2023年に復刻された本書を読んで、今に通じる内容が多いのに驚いた。田中角栄という希代の政治家が持つ、スケールの大きさと構想力、国土建設への熱い思いも伝わってくる。

田中の列島改造計画は、戦後の高度経済成長の結果、過密化する都市と過疎に苦しむ地方の両方の問題を解決することにあった。「序にかえて」で田中は次のように書いている。

「都市集中の奔流を大胆に転換して、民族の活力と日本経済のたくましい余力を日本列島の全域に向けて展開することである。工業の全国的な再配置と知識集約化、全国新幹線と高速自動車道の建設、情報通信網のネットワークの形成などをテコにして、都市と農村、表日本と裏日本の格差は必ずなくすことができる」 工業地帯を地方に移すための先行投資として田中が唱えるのは、新幹線網や高速道路網だけではない。港湾、そしてエネルギー確保のため原子力発電、水資源確保のためのダム建設など総合的な国土構想を提示する。さらには、情報の重要さに着目して情報ネットワークの構築も唱えている。

数字はたくさん出てくるが、難しい経済用語は一切なく、いずれも具体的で実際的である。執筆には官僚たちが関わっているが、この実際的なところが田中角栄らしく、読んでいて気持ちがいいくらいだ。

日本がいま直面している、人口減、東京一極集中、地方消滅などの危機は、みな田中がそれを予感し解決しようとしたものだ。田中は志半ばでそれを果たせなかった。日本がそれらの国難を越えてゆくには、少なくとも田中角栄のようなスケールの大きさと大胆さを持って事に当たる必要があるだろう。

もし田中角栄が生きていたら、これらの問題にどう取り組んだろうかと想像したくなる。もちろん今の時代は田中の頃と違い、産業構造も変化し、田中が得意としたハードな土木建築よりソフト面に比重が移っている。しかし、何より実際家だった田中だから、彼の遺産とも言える高速道路網と今のデジタル技術などを駆使して、今の時代に合った大胆な構想を打ち出すのではないかと言う気がする。いずれにせよ、『日本列島改造論』は、いまこそ読み直されるべき一冊だ。

(特別編集委員・藤橋 進)

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »