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蝉たちの沈黙

蝉の鳴かない夏の公園
蝉の鳴かない夏の公園(福島県二本松市)

今年は蝉(セミ)が鳴かない。筆者の住む東北地方南部では毎年、6、7月頃になると、朝と夕方、ヒグラシが鳴き始める。哀愁漂うあの鳴き声は日本人の心に沁み入り、夏の始まりを感じさせてくれる。昼間はアブラゼミ。夏の照りつく日差しと青空、白い雲が似合う歌声だ。そしてミンミンゼミがあの独特な歌声で鳴き始めると夏もピークを迎え、やがてツクツクボウシの声が聞かれるともう夏も終わりである。

それが今年は蝉の声が聞かれないのである。ヒグラシはここ最近になってようやく鳴き始めたが、声が小さい。例年の大合唱というには程遠く、小編成な感じなのである。しかも毎日鳴くわけでもない。アブラゼミの声はまだ一度も聞いていない。実に不思議だ。

ちょっと調べてみると、蝉が鳴かない原因としては、気温の上昇、天敵の増加、生息地の減少などが挙げられるらしい。自然環境が大きく変化したわけでもなさそうだし、気温の上昇と言っても、暑い夏は過去にもたくさんあった。天敵の増加なのか、よく分からない。

日本に生息する蝉の幼虫は、短い種では1~2年、長い種でも4~5年、地中生活をする。そして地上に出て羽化し成虫となり、短い地上生活を送って一生を終える。

蝉が鳴かないということは、地中の幼虫が地上に出て羽化していないと推測される。だとすれば、地中で何か異変が起きているのだろうか。何らかの理由で地中の幼虫が大量に死んでしまっているとか、それともただ単に、今年はたまたま羽化する個体が少ないだけなのか。いろいろ調べてはみたけれど、はっきりとした原因は分からない。

そういえば最近、東京都江東区の公園で蝉の幼虫が大量に捕獲されるというニュースを読んだ。公園の管理者によれば今に始まったことではなく10年も前からで、捕獲者は主に中国人や東南アジアなどの外国人だという。どうやら食用目的での捕獲らしい。

『食べられる虫ハンドブック』(自由国民社)によると、蝉は成虫も幼虫も食べられ、捕獲の名人になると数時間で幼虫を200から300匹も採るそうだ。日本で一番美味しいのはアブラゼミで、サクサクしてエビに似た食感があり、赤身の胸肉は旨みがあるらしい。蝉の抜け殻は漢方にも使われる。

まさか蝉の幼虫の乱獲で蝉がいなくなってしまっているのか。それとも気候変動とか何か別の要因があるのだろうか。いずれにせよ、蝉の鳴き声は日本の夏の風物詩である。蝉たちが沈黙する夏など続いて欲しくはない。

(長野康彦)

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