半世紀以上も前、作家三島由紀夫が「三島事件」を起こして亡くなった。三島は文壇の最高実力者だったが、その後継となったのは吉行淳之介と丸谷才一だ。三島に比べれば軽量感は否めない。文壇の実力者は、文学賞の配分権や選考委員、芸術院会員の推薦権などを持つ。吉行は「文壇の人事部長」とも呼ばれた。
軽量とは言っても、それなりの人気と実力があったことは紛れもない。しかし、時代が下って1992年、『男流文学論』(筑摩書房)という本が刊行され、吉行への厳しい批判が行われた。
『男流文学論』は3人の女性(上野千鶴子氏、小倉千加子氏、富岡多恵子氏)の対談をまとめたものだ。上野氏、小倉氏は学者、富岡氏は作家だ。この3人の女性は、吉行の好みの文学世界である「銀座・ホステス」を扱っている作品に強い批判を浴びせた。
日本の近代文学には「花柳小説」という永井荷風の流れがあった。吉行の作品世界もその系譜だ。半面、女性は吉行のものも含め、この種の作品はほとんど読まない。
だが、学者2人と作家1人の組み合わせとなれば、一般女性とは違って「この際吉行を叩(たた)いてみるのも面白い」ということで「吉行否定論」を一方的に進めることとなった。それが「女性の権利」が強調される風潮の中、話題になった。
『男流文学論』は吉行の存命中に刊行された。吉行は94年のきょう亡くなった(70歳)。彼がこの本を読んだかどうかは分からない。






