トップコラム「遺憾砲」の威力【上昇気流】

「遺憾砲」の威力【上昇気流】

1回目の試験航海に出る中国軍の空母「福建」=2024年5月、中国・上海(同軍のウェブサイトより・時事)

「遺憾砲」という言葉がある。わが国の政府・外交当局が得意とする“武器”で、好ましくない他国の行動に遺憾の意を表す外交的メッセージだ。北朝鮮の日本周辺に向けた弾道ミサイル発射や中国の領空・領海侵犯などの際によく発せられる。

広辞苑によると、遺憾は「思い通りにいかず残念なこと」といった意だが、一般感覚としては重大な安全保障の事象に対していかにも間の抜けた反応だろう。ネットなどで「外務省がまたも遺憾砲を発射」などと揶揄されて久しい。

もちろん外交的な意思表明は慎重であるべきで、遺憾も外交表現の度合いとしては強い方という。とはいえ、抗議に対する中国の声明は木で鼻を括るどころか、時には居直る始末。

防衛省によると、昨年度1年間の航空自衛隊機によるスクランブル(緊急発進)は704回でその66%が中国機に対するものだった。今月には太平洋公海上で中国空母などの警戒監視中だった海上自衛隊の対潜哨戒機P3Cに中国軍戦闘機が2度にわたり異常接近している。

偶発的衝突を招きかねない危険な行動だ。“サラミ戦術”で威圧的活動を既成事実化していく中国に、強い外交メッセージを発して毅然たる姿勢を明確にすべきだろう。

さすがに深刻化していく現状に遺憾砲の出番が少なくなった印象だが、強い意思表明には目に見える政治の決意と防衛力増強の施策が不可欠だ。交渉の水面下で「頑張っています」だけでは国際社会には通らない。

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