作家の遠藤周作は、ユーモア小説やエッセーなどでも多くの読者を得、実生活では子供顔負けのいたずら好きだった。しかしその活動の中心は、『沈黙』などカトリック信仰に根差した小説で、神や信仰など重いテーマに正面から挑んだ。
そんな遠藤を同じ「第三の新人」の1人、安岡章太郎は、作家である以上に思想家との見方をしている。遠藤文学は信仰と思索を基にした骨太の文学と言える。代表作の『沈黙』は発表当時、カトリック教会から強い反発もあった。しかし、遠藤は自身の信仰観、イエス像を作品の中で深めていった。
一方で遠藤は、矢代静一、安岡章太郎ら友人の文学者をカトリックに導いた。矢代の洗礼式では代父を務め、立会人を務めたカトリック信徒で友人の三浦朱門に「ばかがまた引っ掛かった」と言ったが、もちろんこれは、遠藤一流の照れ隠しだった。友人などを教会に連れて来た時はとても喜んでいたと言う。
遠藤がこのように友人への伝道に努めたのは、第二バチカン公会議で打ち出された「信徒使徒職」の考えだったのだろうと、三浦朱門は言う。これによって、カトリック教会では聖職者以外の一般信徒も布教や奉仕活動に積極的に参加することが推奨された。
遠藤の作品を読んで、カトリックあるいはキリスト教に関心を持ち、中には信徒となった人も少なくないだろう。
(晋)