
「憎たらしいほど強い」と言われたのは元横綱北の湖。攻め手は違うが、その強さをほうふつとさせたのが大相撲夏場所の大関大の里だった。優勝を決めた13日目は、立ち合いで両腕を固めて当たっていくとそのまま得意の右を差し、左も使いながら一気に押し込む。その鉄壁の攻めで相手を圧倒した。
序盤の取組で取りこぼしもなく、終わってみれば14勝。2場所連続優勝は横綱“当確”の実績だ。学生相撲の時からその才能は知られていたが、大相撲界で二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)との師弟の縁を得て、その指導の下に努力を重ねた。今も師に直接、稽古をつけてもらう時がある。
親孝行で、大関昇進の口上の「唯一無二」は父親の「唯一無二の人になれ」という言葉から取ったという。「向上心が成長の源」を心の中心に置く。
横綱昇進まで所要13場所という歴代1位の驚異的なスピード出世は目の前。正式に決まれば奇(く)しくも稀勢の里以来、待望の日本人横綱の誕生だ。
以前、昭和の大横綱だった大鵬親方にインタビューした時、「今の日本人力士は、外国人力士に比べ石にかじりついても番付上位にいくという執念が足りない。(親方らについても)昔のように親代わりとなり、じっくり人間性を育てていくことができていない」と苦言を呈していた。
横綱昇進の口上が楽しみだ。大の里という力士の今後への期待も強いが、大相撲界の未来に大きな希望の灯がともったことが何ともうれしい。