
「田水よく流れて村に夏が来し」(松本巨草)。初夏の季節に目立つのは田植えの終わった水田だ。青々とした苗が整然と並ぶ様子は、稲作を中心とした日本民族の伝統的な精神を象徴している。東日本大震災が発生した時は、被災者が支援物資を受け取る際に列を作って秩序立って行動する姿が世界で称賛されたが、それはこうした水田の姿にも表れている。
旧暦の5月は「皐月(さつき)」と呼ばれる。田植えをする季節だから「早苗月(さなえづき)」と呼ばれ、それが縮まって「さつき」となったという説がある。春に芽吹いた植物が成長していくイメージがある。ただ都会に住んでいると、水田自体を見掛けることが少ない。
田植えは5~6月に行われることが多いが、地域によって異なっている。1月に田植えをする沖縄県の石垣島では、8月にも二期作のため田植えが行われることも。
都会から地方へ行く時に水田の広がる景色に出会うと懐かしくなる。電車の車窓から見える田園風景は、心を癒やすものがありほっとする。
萩原朔太郎(さくたろう)の詩「旅上」には「五月の朝のしののめ」という一節がある。確かに、緑が山野を満たす季節は旅情を誘われる。旅に出るため新しい背広を着た朔太郎の目には、遠いフランスの風景が鮮やかに映っていたのかもしれない。
コメの高騰が続く中、「コメは買ったことがない」という失言で農林水産相が更迭された。小泉進次郎新大臣がどのような手腕を見せるか国民は注視している。