トップコラム海を切り開いた「ゼロ番地」【美ら風】

海を切り開いた「ゼロ番地」【美ら風】

糸満市役所(WIkipediaより)

沖縄本島南部の糸満漁港にほど近い一角に、「0(ゼロ)番地」と呼ばれるエリアがある。その名の由来は、戦後の混乱期、地元の有力者たちが自己判断で海を埋め立てたため、正式な地番が割り振られなかったためとされている。

埋め立てられた土地にはスナック街や小規模な飲み屋が軒を連ね、漁港周辺の賑(にぎ)わいと相まって、レトロな歓楽街として発展。その独特な歴史と雰囲気から、現在も糸満のディープスポットとして、多くの人々を惹(ひ)き付けている。

しかし、ゼロ番地には行政としての課題も横たわっている。無許可の埋め立て地であるが故に、上下水道や道路などのインフラが後手に回り、長らく都市計画の枠外に置かれてきた。近年になって住所が整備され、再開発の動きも見られるが、住民の間では「昔ながらの雰囲気を残してほしい」との声と、「安全で快適な生活環境を整えてほしい」との要望が交錯している。

糸満市が策定した「まち・ひと・しごと創生総合戦略(令和3~7年度)」においても、市街地の再編と、公共交通の再構築が掲げられているが、ゼロ番地周辺は優先整備地区には含まれておらず、交通アクセスの整備、防災対策の強化などの点で課題を残している。

行政に「取り残された状態」となっているゼロ番地だが、同時に歴史の「生き証人」としての価値も持つ。戦後の混沌(こんとん)とした時代を生き抜き、個人の手で海を切り開き、街がつくられた歴史は、良くも悪くも戦争の影響を後世に伝える一つの資料だといえる。

行政は目を背けず、歴史を伝えるガイドラインの設置や、再開発における景観保存のルール策定などを進め、独自性を生かし、地域経済活性に繋(つな)げる取り組みを模索してもらいたい。

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