30年以上、フランスに住み、日本文化の浸透についても観察してきた。中でも一般庶民の和食浸透度は、この30年間で大きく飛躍した。30年前、パリ中心部サントノーレ通りにあった日本式カレー屋は短命だった。
寿司(すし)を振る舞うと、30年前だと「生魚なんて食べない」というフランス人もいた。日本酒の試飲会をやっても今一歩広がらなかった。ところが今ではランチを和食にするサラリーマンはすっかり定着し、和食を求めて日本に行くフランス人が増え続けている。
昨年、日本を訪れたフランス人観光客の数は、過去最高の38万5000人に達した。これは前年比約38・8%増で、コロナ禍前の2019年と比較しても14・5%増加した。欧米からでは米国、カナダ、英国に次ぐ4位で、特に日本のアニメで育ったフランス人は50代までさかのぼり、日本文化の定着度は飛躍的と言える。
パリでは中国系、カンボジア系、ベトナム系の和食レストランが多かったが、パリ市民の舌は肥えていき、いいかげんな和食では飽き足らない。まじめに和食の質を追求しないレストランでは閑古鳥が鳴いている始末だ。
エールフランスのパイロットをしているフランス人の友人は、日本に行ったついでに徳利(とっくり)とお猪口(ちょこ)を買ったそうで、家に客を招待する時は日本酒を振る舞って得意になっているそうだ。次のステップは日本酒に合う料理をフランスで開発することだろう。寿司を食べ飽きたフランス人は、和食の守備範囲を増やしており、うどん、おにぎりなどレパートリーが増える一方なのは喜ばしいことだ。(A)