就任100日を超えたが、トランプ米大統領の迷走が止まらない。日本など友好国にも高額関税を提示し、腰の定まらないディールで世界経済に大混乱をもたらしている。中国とは高関税の応酬で、事実上経済的断交状態から、一転して交渉開始、関税引き下げと、これまた迷走だ。
こうした中、見逃せないのは、米国と友好国の同盟関係の信頼性が著しく脆弱(ぜいじゃく)化したことだ。ロシアによる「力の支配」を止められないまま、ロシア寄りの和平提案をウクライナに強要して、性急に和平を急ぎ、一方で北大西洋条約機構(NATO)からの離脱をほのめかしている。欧州各国は、米国抜きの防衛態勢強化を急ぐ。
台湾に関しては、コルビー国防次官は3月4日の米上院の指名公聴会で「今後数年間に中国が台湾を攻撃する可能性は現実的にある」、「台湾失陥は米国の国益にとって深刻な打撃」としつつ、台湾の更なる防衛努力が「米国の介入を可能にするために不可欠だ」と条件を付けた。しかも現状はGDP(国内総生産)比3%以下の台湾の防衛費に関し、「10%程度か、それ以上にすべきだ」と事実上不可能な要求をし、結果として台湾有事への米国の介入に深刻な疑念を抱かせた。
以前にトランプ大統領は、中国が台湾に侵攻すれば超高関税で対応すると言ったが、スコット・ベセント財務長官は、別に、「関税を巡る中国との対立は米中にとって持続不可能」とも語っており、政権全般としては支離滅裂だ。
台湾有事に重大な関わりを持つ日本は、日米安保の信頼性に不安を抱きつつ、欧州、インド、フィリピン等と防衛協力の強化を図っているが、米国から自立した防衛力の抜本的強化や憲法改正にまでは踏み切れておらず中途半端だ。
しかし2022年に策定された国家安全保障戦略、国家防衛戦略は概(おおむ)ね10年程度の将来の戦略や防衛力の目標とされたが、その後僅(わず)か3年で安全保障環境は大きく変化し、その変化に対応できていない。日米同盟の信頼性が著しく低下した現在、果断な防衛力の強化、例えばGDP比で現在の1・2%から米国を超える4%まで防衛費増を図るくらいの決断がいる。
憲法上完全な集団的自衛権が行使できないなら、我が国独力でも「日本への侵攻は労功相償わない」と軍事力強化に狂奔する中国に思わせ、断固対峙(たいじ)する覚悟が必要だ。それが日米同盟の抑止力強化にも繋(つな)がる。日本の危機は米国の危機で、インド太平洋における日本の抑止力が米国の国益に如何(いか)に重要かを米国に認識させる。これも日米関税交渉を控えて喫緊の課題だ。(遊楽人)