「浜なし」の名前を知る人は、そう多くないだろう。横浜市内で作られるナシのブランド名だ。市内に約130軒の生産農家があり、昨年の生産量は約930㌧。横浜を代表する果物だ。
スーパーなどには出回らず、地元の直売所で取れたてのものを売っている。気流子も一昨年、初めて食べる機会があったが、味と瑞瑞(みずみず)しさは近所の八百屋で買う豊水より1ランク上の感じがした。
規格外の浜なしを使い長野県のワイナリーなどに委託してワインも作られている。19日付産経新聞の神奈川版によると、「横浜ワイン特区」が市内全域で認められ、市内で取れるナシやブドウを原料にしたワインの小規模生産ができるようになった。新しい特産品製造の動きもあるという。
佐藤春夫が大正8年に発表した名作『田園の憂鬱』の舞台は、現在の横浜市青葉区鉄町(くろがねちょう)にあった。当時と比べ宅地化は進んだが、行ってみると畑や果樹園があり、田園風景も残っている。実はここでも5軒の農家が浜なしを栽培している。
道路に面して幟(のぼり)の立った直売所があった。訪れる客は車で通りかかった近辺の人が主のようで、地産地消を基本にした果物栽培である。
昭和55年、大平正芳首相(当時)が打ち出した「田園都市構想」の報告書では「かつてのような自給自足的地域主義ではない」とわざわざ断っている。「デジタル田園都市国家構想」の今は、自給自足までいかなくても「地産地消」は重要な柱にしていいのではないか。