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「安全保障は酸素のようなものだ。それが希少になるまでは当然のものとみなしていても、いざなくなると大変である」――。米国の政治学者で元国防次官補のジョセフ・ナイ氏の言である。
ハーバード大学での講義をまとめた『国際紛争 理論と歴史』(有斐閣)の日本語版への序文にある。平和を当たり前のように思っている日本人への警句である
ナイ氏は価値観や文化を重んじる「ソフトパワー」の提唱者だ。その一方で「ハードパワー」も直視し、紀元前5世紀のペロポネソス戦争以来の戦争を徹底したリアリズムの視点で分析している。
そこから融和と対決の在り方を問い、その立ち位置を間違えたのが第1次大戦と第2次大戦間という。「戦間期の大いなる皮肉の1つは、1920年代に西洋諸国がドイツに融和すべき時に対決姿勢をとり、1930年代にはドイツと対立すべき時に融和政策をとったことである」。戦勝国がドイツに巨額の賠償を求めず(融和)、ヒトラーの軍事的野心には抑止力を備える(対立)。そうすれば第2次大戦に至らなかったと捉えている。
冷戦終焉から10年後の2000年、ナイ氏はリチャード・アーミテージ元米国務副長官と日米関係への提言「アーミテージ・ナイ報告書」をまとめた。6度にわたる提言で「ハードパワー」の充実を唱え、中国の軍拡への備えを説いた。
アーミテージ氏とナイ氏の訃報が相次いで伝えられた。提言は「平和を守る」遺言となった。合掌。