
先日、週末を利用してソウル中心街にある歴史博物館に足を運び、常設展示物の「朝鮮時代のソウル」をのぞいた。長年ソウルに暮らし、オフィスが博物館のすぐ裏にあった時期もあったが、仕事で目の前の情勢を追うことに忙しく、あまり利用してこなかったことへの反省もあった。行ってみると、教育熱心なお国柄を反映するように、親子連れや子供たちに歴史を学ばせようという小グループが目立ち、大人たちが展示物の前で熱っぽく説明していた。
ソウルはかつて「漢陽」と呼ばれ、周囲にある山の稜線(りょうせん)に沿って中心部を囲むように城郭が築かれ、その内側は地位や職業などにより五つの区域に分けられた。王宮や主要官庁が立ち並び、富裕層が住む「北村」、科挙合格者が上級試験を目指してさらに勉強した成均館や軍営が配置された「東村」、王族や権力層の住まいがある「西村」、技術者や商人が主に住んだ「中村」、そして下部官庁が位置し、権力から疎外された「士人(ソンビ)」が暮らした「南村」だ。
5区域を合わせたエリアは現在もソウルの中心地として栄えているが、個人的に関心が向くのは「南村」だ。士人は学識を有しながら権力や富裕栄華を貪らない高潔な人柄で、いわゆる両班の理想像だったというから、庶民受けも良かったのではないか。カネの力と暴力で周囲を従わせ、権力を握るためなら平気で嘘(うそ)をつき、他人を蹴落とすような人物が大統領になろうとする現代韓国でこそ、「南村」のような存在を思い起こす必要があるのではないかと思った。(U)