
「ウィーンはベンチが多いね。少し歩くとすぐに次のベンチが目に入るよ」
久しぶりに会ったハンブルクの友人はつぶやいた。
ウィーンに何十年も住んでいるが、街にベンチが多いとは気が付かなかった。初老を迎えた友人にとって、歩き疲れるとすぐにベンチに腰を掛けられるウィーンは老人に優しい街と感じたのかもしれない。
「ハンブルクはどうなんだ。街にベンチは少ないのか」と聞いてみた。友人は「ドイツ人は働くことに美徳を見いだす国民だから、すぐに腰を下ろすことができるベンチなどを用意する発想は市当局者にはないよ」と言う。
ドイツ2番目の大都市で湾岸都市のハンブルクとモーツァルトやベートーベンの音楽で生活の糧を得ている観光都市ウィーンでは街の構造が変わるのは当然かもしれない。
友人としばし文化論争をした後、近くの喫茶店でコーヒーを飲むことにした。ウィーンっ子はコーヒーが好きだ。昔はコーヒーを飲みながら新聞を読む市民が多かったが、今はスマートフォンに目をやる人が圧倒的に多い。いずれにしても、ウィーンっ子はゲミュートリヒ(のんびりとすること)を好む。
ウィーンはあと数年で200万人都市となる。人口増加の主因は移住者・難民だ。彼らの多くはイスラム教徒だ。欧州のカトリック教国を誇っていたオーストリアでイスラム教徒の数が過半数を占めるのは時間の問題かもしれない。その時、ウィーン市内のベンチの数は増えているだろうか。(O)