
サクラの時期が終わり赤いツツジの花が真っ盛り。また沿道では、細い幹、柔らかく丸みのある葉に、白やピンクの花を付けたハナミズキが目を引く。開花はまだだが、これによく似た花木にヤマボウシがある。
あえて言うと前者は可憐(かれん)、後者は気品。バラエティー豊かな植物の中にありながら、互いがかくも似、微妙な個性の違いを保持して人間に訴え掛けてくるのは驚きだ。植物は誇り高いのだ。
物理学者の故戸塚洋二氏は植物の姿形の形成に「幹のここから枝を作れとか、葉のここに切れ込みをこのくらいの深さで入れよ(中略)などという命令をどこかが発しなければならない」(「戸塚教授の『科学入門』」)と外界の影響を指摘している。
しかし、それだけではなかろう。各樹木にはその遺伝子情報に従い成長を促し制御している内部要因があって、植物本体に働き掛けている。ただし、それが何なのかはまだ明らかになっていない。
花の個性についてこの春、もう一つ印象深かったのは、既に盛りは過ぎたが、多摩川の中洲(なかす)に密集して咲いていた菜の花。水面に反射する陽(ひ)の光を受けた茎の緑が透き通ったように見え、花の黄と調和し幻想的な世界を創出していた。
それぞれの植物には人間の目を楽しませ、調和の美をコントロールする能力が備わっているのではないかと思える。先のハナミズキやヤマボウシもそうだが、植物の生命の自律性や美しさによる人間への働き掛けは見事なばかり。