トップコラム英最高裁の常識とバランス【上昇気流】

英最高裁の常識とバランス【上昇気流】

2月下旬に米ワシントン近郊で開催された保守政治行動会議(CPAC)の会場にて、未成年への性転換医療に反対する団体「ドゥ・ノー・ハーム」のブース前で取材に応じたクロエ・コールさん(山崎洋介撮影)

「2010年平等法における女性と性別の用語は、生物学的女性と生物学的性別を指す」――。トランスジェンダーを法的にどう扱うかが争われていた裁判で、英最高裁が「女性は生物学的女性」という判断を下した。ジェンダー、性別論争に一石を投じるものだ。

英国スコットランドの自治政府は18年、トランスジェンダーの人たちが平等法の下で保護されるとした。これに対し女性人権団体が、女性専用病棟などにトランスジェンダー女性の立ち入りを認めれば女性の権利が侵害されるとして自治政府を提訴していた。

この問題で論争の矢面に立っていたのが、「ハリー・ポッター」シリーズの作者、J・K・ローリングさんだった。ローリングさんはSNSでの発言をトランスジェンダー差別と決め付けられ、映画で主演したダニエル・ラドクリフさんらも異論を唱えた。

しかし「私はトランスの人たちを知っているし愛しているけど、性別という概念を消すことは、人生に関わる有意義な議論の機会を奪ってしまう」という姿勢を貫いた。

スコットランドでは22年、16歳以上であれば医師による診断不要で法律上の性別変更ができる法案を可決したが、英国政府の拒否でこれを撤回した。自治政府は独立性を示すためにリベラル色を強めたという政治的背景もあった▼判決で英最高裁はトランスジェンダーの人たちの差別からの保護も強調した。常識とバランスを重んじる英国的な判決と言える。

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