トランプ米大統領による貿易・関税政策が世界経済を揺るがしている。相互関税の税率が発表されると、各国の株価は軒並み大幅な値下がりで反応した。日経平均株価も3営業日続落し、計4500円余り、13%近くの下落幅となった。
米政権独自の算出法で、一方的に高い税率が提示されたケースも多く、各国に動揺が走り、経済リスクを織り込んでいった。
相互関税が実際に発効された後、13時間ほどで中国以外の諸国とは90日間、上乗せ税率(日本は14%)の適用が一時休止された。米国株、米ドルに加え、米国債までもが売られてトリプル安となった危機意識から、米国自体への信用不安を回避した形だ。
トランプ氏といえば1月の就任後、不法移民の取り締まり、政府効率化など主要な政策を、選挙公約通りに推し進めた大胆さが際立っていた。従って米国製造業の回復、また貿易不均衡の是正に向け、氏が関税政策にも力を入れて取り組むことは自明だった。
また、日米関係を口にする際、トランプ氏からは事あるごとに「シンゾー」こと安倍晋三元首相の名前が発せられる。日本への相互関税を発表した時も然(しか)りであった。安倍氏との間で築かれた信頼は、今日の日米外交にも生かされ、関税を含む通商の難題も解決しやすくする貴重な遺産となっている。
しかし、2月の日米首脳会談でも関税は議題となったが、公表前の「仮定の話」として、石破茂首相は向き合う姿勢を見せなかった。国会でもトランプ氏の意向が「よく分からない」など、心無い答弁を行っていた。
実際に発表された相互関税の税率を「想定外」、また根拠を尋ねようにも米側の「交渉カウンターパートが不明」とは呆(あき)れたものだった。政権は事前のシミュレーションを怠り、対米の意思疎通の準備も欠けていたのだ。
日米貿易協定(2020年発効)を基本とする対米交渉が始まった。相互関税に先立って発動された自動車への25%の追加関税による影響も深刻で、今後も予断を許さない状況が続く。
トランプ関税を巡る一連の問題を石破氏は「国難」と呼び始めた。安全保障上の最重要パートナーである米国に対して防衛通が使う表現としては違和感があるが、それでも事態の深刻さを受け止め、好転させる必要がある。
内政の課題解決に向けても、この機会を大いに有効利用したい。
備蓄米の放出にもかかわらず、コメの高騰と品薄という農政の深刻な課題が続いている。こうした中、米国米の輸入拡大は優先すべき事項だ。また、日米の自動車産業の競争力において、日本企業が受ける消費税の還付が「非関税障壁」として不公平との指摘を受けている。ここに物価高対策を結び付け、消費税減税に転用する議論もできるだろう。
何より、世界経済の信用不安を和らげるために、米国債の最大保有国として日本の存在感を示すことが重要だ。
内政においても、買い支えによる利息収入は減税を埋める財源として財務省が求める財政のプラスに貢献できる。
一方、トランプ関税は戦略的な対中政策とされる中、公明党の斉藤鉄夫代表と自民党の森山裕幹事長の訪中は、中国による招聘(しょうへい)によって彼らの思惑に嵌(は)められた側面もあるだろう。これは避けるべきリスクであることは言うまでもない。(駿馬)