いまから9年前の2016年の1月、気流子はインド西部アーメダバードからムンバイ行きの急行列車に乗った。まだ暗いうちに駅舎に足を踏み入れると、客の多くが駅舎の床に毛布を敷いて寝転んでいた。
列車に乗り込むと中は真っ暗。席は指定になっているので、乗客は懐中電灯で自分の席を探し出す。そのうち電灯がともり列車は動きだした。
沿線の風景も珍しかったが、途中の停車駅では次から次にいろんな物売りが入ってきて退屈することがなかった。タンバリンのようなものを鳴らして熱唱しご祝儀をもらう歌手も。まさにインド庶民の万華鏡を見るようで、8時間の汽車旅も短く感じられた。
到着したムンバイは当時人口1900万人のインド最大の都市。とにかく人が多く、あちこちで高層ビルを建設し、エネルギーが湧き返っているという印象を受けた。
この汽車旅は前年、安倍晋三首相(当時)が両都市間に新幹線方式を導入した高速鉄道を建設することでモディ首相と合意したのを受け、どんな路線か見るのが目的だった。完成したら新幹線でもう一度旅するつもりだったが、当初23年の開業予定は、コロナ禍や用地買収の難航で遅れている。
インド側は自国製の車両使用へ方針転換しつつあったが、東北新幹線の次期車両「E10系」の採用が固まった。27年に一部区間の営業を開始するという。先頭車両がカモノハシの嘴(くちばし)に似たE10系がインドの大地を疾駆する雄姿が目に浮かぶ。