トップコラム森敦の弟子、大栗道榮さん【上昇気流】

森敦の弟子、大栗道榮さん【上昇気流】

注連寺

山形県鶴岡市の山里に真言宗注連寺がある。ここを舞台にした森敦の小説『月山』は、1974年に芥川賞を受賞した作品だが、既に著者は62歳で「老新人作家」と言われた。

この『月山』の舞台が、小紙「名作再発見の旅」(4月11日付)で紹介された。麓から見た「臥牛(がぎゅう)山」と呼ばれる月山の写真がこの土地柄をよく伝えていた。この作家は仏教の探究者で、若き日、東大寺塔頭(たっちゅう)に住んで講義を聴いたという。

小紙の執筆者だった東京・代々木の大日寺住職、故大栗道榮さんは、かつて「私の恩師」という欄で師の森について語ってくれた。出会ったのは80年ごろで、僧侶らの集会に講師として招かれていた。

終わってから大栗さんが会いに行ったのは、密教をやさしく文章に表現する必要があると考えていて、その指導を受けたいと思ったからだ。「小説を書くのはやめなさい。ただし、ご本尊様への手紙は思いのままに書きなさい。何でも書きなさい」。

この返答は『月山』を書いた時の気持ちを再現していた。森は旅先から友人らに手紙を書いたが、山奥の雪に埋もれた寺に手紙は来ない。出すこともできない。そこで「天に向かって手紙を書いた」。それが小説になった。

2人の交流は森が亡くなるまで続き、大栗さんは著書を贈り続けた。その著書に森も学んでいたに違いない。亡くなる3日前、森は大栗さんの『四座講式物語』を3回読み終えて「流れるような文章だ」と絶賛した。

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