
満開の予報に促され、東京・九段の靖国神社、千鳥ケ淵の桜を観(み)てきた。花曇りの中ではあったが、多くの人で賑(にぎ)わっていた。気象庁が指定した標本木の周りには人垣ができていた。
靖国境内には約500本の桜が植えられている。招魂社と呼ばれていた頃、木戸孝允が植樹したのが始まりで桜の名所となった。先の大戦後は、英霊となった戦友の鎮魂のために隊友会によって多数の桜が献木された。
標本木の近くの桜にも「奉納『吉野桜』昭和42年4月30日 広第二三〇八部隊 第五十八師団輜重部隊 應桂会」などと書かれたプレートが付いている。それらを観ながら、中央アジア、ウズベキスタンの首都タシケントにある日本人抑留者墓地の桜を思い出した。
大戦後、当時はソ連構成国だったウズベキスタンにも約2万3000名の日本軍捕虜が抑留され、この墓地には抑留中に亡くなった87人が眠っている。ソ連崩壊後、独立したウズベキスタン政府の手によって墓地は整備された。
気流子は10年ほど前に訪れたが、墓地には日本から贈られた桜の木が植えられていた。この桜は中山恭子駐ウズベキスタン大使(当時)らの尽力で日本から運ばれたものだ。
散華の象徴として語られる桜だが、この桜は、遠い異郷で亡くなった抑留者たちに、懐かしい祖国と故郷の風景を見せてあげたいとの思いが込められている。戦後80年の今年は、国のために散った人々を思いながら桜を眺めたい。