
神奈川県相模原市に30万株ものカタクリが自生する城山かたくりの里がある。個人所有の里山だが、3月中旬から4月中旬、1カ月だけ一般公開される。今は亡き山友の誘いで8年前に初めて訪れて以来、お気に入りの場所となった。
カタクリは発芽から開花まで7~8年ほど要する。淡い紅紫色の花弁は、朝は下向きに閉じたままだが、日が当たるにつれ花弁が後ろに反り返る。そのけなげな姿が愛らしい。この里には、ほかに、ユキワリソウ、リュウキンカ、シュンラン、ショウジョウバカマ、ヒトリシズカ、オオバキスミレなど多種の草花が自生している。カワヅザクラ、ホウキモモ、豊後梅、コブシ、ゲンカイツツジ、ぼくはん椿、アセビ、ミツマタ、モクレンなどの春の樹木花も山を彩る。
チングルマ、シラネアオイ、イワウチワといった高山植物も見られ、豆粒のような小さい花弁に近づけば、万華鏡のような色鮮やかな世界が広がり、花弁の色や形は一つ一つユニークで実に個性的だ。まさに“自然はゴッドデザイン”その創造力に感服する。
脳科学的には、子供の脳が劇的に成長する乳幼児期に野鳥や虫の声、風の音、樹木や花の匂い、自然とじかに触れ合うことで豊かな幅広い感覚系が育つ。自然地理学から言えば、日本人の情緒、命に対する感性、信仰というものは急峻(きゅうしゅん)な山と豊かな水が創り出す変化に富んだ自然の中で育まれたという。
子供の頃、「自然に勝るものはない」とよく父から聞かされた。その意味が分かる年齢になったと感じる。虫好きで知られる解剖学者の養老孟司さんは「子供は自然に近い存在である」と、スマートフォンにハマる子供の未来を心配している。
春休み、桜が開く頃にはスギ花粉がピークを過ぎる。スマホから離れ、子や孫と春を探しに里山に出掛けてみるのもいい。
(光)