
「そばと言えば信州」と思っていたが、「最近は福井県、山形県のそばの知名度が上がっている」という記事を新聞で読んだ。「信州そば」もうっかりしてはいられない。
一方で「そばとうどん」の競争も気になる。駅構内の立ち食いそば店で目にした光景。「そばは頼んでませんよ。うどんを頼んだんですよ」という高齢の女性の声が聞こえた。
だいぶ前の話だから、チケットではなく、客が口頭で注文するシステムだった。うどんに替えてもらった女性とその夫(彼はそば)が当方のすぐ近くの場所に来た時、夫が「東京はそばなんだから、ちゃんと言わなきゃダメだよ」と妻に向かって言った。
妻は妻で「うどんって、はっきり言ったわよ」と言い返す。まあ、妻の言い分が正しいのだろうと思った。そのころは東京の立ち食いそば店でうどんを食べている客はめったに見掛けなかった。
「そば19対うどん1」ぐらいの割合で、そばを注文する客が圧倒的に多かった。店員も「そばに決まっている」という気持ちで対応するだろうから、うどんをそばと取り違えたのだろう。
それはそれであり得ることだ。ところで令和の現在はどうか。立ち食いそば店でのうどんも、結構増えてきているのだろう。
そばとうどんを比べると、世間の情報量ではうどんが圧倒的に多い。うどんは企業化になじむが、そばの企業化は難しそうだ。そばが「純文学・芥川賞」で、うどんは「大衆文学・直木賞」のようでもある。