2月28日に米国のホワイトハウスで行われたトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との会談は激しい口論となり、予定された鉱物資源の権益を巡る合意文書への署名が見送られるという衝撃的な形で決裂した。その後、トランプ政権は3月3日、ウクライナに対する軍事支援の一時停止を発表した。
この米国の圧力を受け、11日にサウジアラビアで行われた米国との会合でウクライナは「ロシアとの30日間の停戦」という米提案に同意した。それは、同国が事実上、露軍占領下にある領土の武力奪還を断念することを意味する。
米国案の詳細は明らかでないが、侵略された側のウクライナにとって苦渋の決断だった。しかし戦場で劣勢で国力も疲弊している同国は、譲歩に応じてでも米国の支持支援を取り付ける必要があった。これを受け米国のウクライナ支援も再開された。
欧州抜きで強引に事を進める米国の態度は傲慢(ごうまん)そのもので、ウクライナや欧州の立場に関する配慮等は微塵(みじん)も感じられない。18世紀以降の世界を主導した欧州と米国の関係は根本から変化した。
トランプ大統領は明らかに、欧州よりロシアの方が重要だと見ている。現在の国際関係の中核となる欧州との同盟関係を捨て、ロシアとの関係強化を選ぼうとしている。米欧同盟の要である北大西洋条約機構(NATO)から離脱する可能性さえもほのめかしている。
米国の「欧州離れ」が進み、軸足をロシアに移すようなことになれば、従来構築された世界の枠組みは根底から覆される。軍事力や関税発動などの強権で自国の意のままに相手を操る、19世紀並みの帝国主義世界に逆戻りすることになる。リベラルで予測可能かつルールで進められる貿易関係は終焉(しゅうえん)を迎える。
これにロシアがどう応じるか。ウクライナへの侵略は意に反し長期化し、国力は疲弊しているが、即停戦を急ぐほど困窮した状態ではない。ロシアに比し軍事的に弱小なウクライナのみが相手なら、まだ継戦能力は十分で、戦場では優勢だ。プーチン大統領の独裁的統治力も健在だ。考慮するのは米停戦案の内容だけだ。
米国案がロシアに有利なら、ロシアは老獪(ろうかい)に更なる有利な条件を求め、米国に譲歩を迫るだろう。米国が簡単に妥協しなければ交渉は長引く。当面米露の傲慢不遜で独裁的な両大統領の駆け引きから目が離せない。中国は両者のお手並み拝見の構えだ。我が国は、米国との同盟は堅持に努めつつ、その庇護(ひご)の下からは独立自立した国家運営を模索すべき時代だ。(遊楽人)