トップコラム盲目の弟支える兄の愛

盲目の弟支える兄の愛

故郷(東北地方)に住む同級生が上京すると連絡してきた。弟も一緒なので、都内を案内してほしいという。

弟は目が見えない。生まれつきのブラインドでなく、徐々に視力が衰え、中学を卒業した頃にはすっかり視力が失われてしまった。小学生の頃、自転車乗りを覚えるため、空き地で転んでは乗り、転んでは乗りしていた弟の側には、いつも兄の姿があった。

60歳を過ぎた兄は、農業を営みながら共に暮らす弟の面倒を見ている。専門学校を卒業した後、あんまマッサージ指圧師となった弟には、筆者の父が生前、よく世話になった。二人とも結婚していない。兄は一人では旅行に出掛けることはせず、いつも弟を連れて行く。海外旅行も一緒だ。

人でごった返す東京駅を目の見えない弟を連れて移動するのは大変だろうと思い、新幹線ホームまで迎えに行った。どこに行きたいか聞くと、「明治神宮」と言うので、タクシーで原宿に向かった。

筆者は盲人と歩いたことがなかったので、どう接していいか分からなかったが、兄の二の腕を掴(つか)む弟に「今、鳥居の下だよ。一礼しようか」などと、声を掛けながらゆっくり歩いた。

本殿で手を合わせた後、弟は「俺、神社が好きなんですよ」とポツリと言った。「神社を参拝したら、弟は必ずおみくじとお守りを授かるんだよね」と兄が言うので、社務所に寄った。二人は境内で何を感じ、何を願うのだろうかとの思いが、筆者の胸をよぎった。

道順は逆になってしまったが、明治神宮の後、皇居、浅草寺、上野公園を回った。食事をしながら兄が言ったことが忘れられない。

「俺が死んでも、弟が困らないように、金だけは貯(た)めている」。トイレにまで一緒に行く姿に、兄弟の絆の強さを知らされた一日だった。

(森)

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