
昭和レトロがブームとなる中、昭和を知らない若い世代の間で昭和歌謡が人気というのは面白い現象だ。ユーチューブなどで昭和の歌謡曲を改めて聴いてみて、いろいろな意味で「聴かせる」歌が多いと思う。個性と実力を備えた歌手が多く、歌の多くはその歌手のために作られた。
一方で昭和歌謡は、ヒット・メーカーと言われる作詞家、作曲家の存在を抜きには語れない。売れる歌を作るのが彼らの仕事だった。そのために常に時代の空気を意識し、その時の日本人の心を代弁し、大衆が求めているものを提供してきた。
商品だから新しさも要求される。その新しさが受けると、それが時代の空気を作るということもあった。作詞では阿久悠、作曲なら筒美京平がそのチャンピオンだった。
もちろん作り手の個性や個人的な体験も重要だが、流行歌である以上、常に時代の空気への敏感さが要求された。歌は作詞家・作曲家の社会批評でもあった。
歌は世につれ世は歌につれという。歌が時代を生きる人々の心の表現である以上それは当然だが、歌謡曲の場合は作詞家・作曲家のプロの仕事が大きかった。
テレビやラジオ中心の昭和の時代と比べ、今や音楽シーンは大きく様変わりし、歌い手、媒体ともに多様性は豊かになった。しかしよほどの天才が出ない限り、後世にまで歌い継がれる曲は生まれないような気がする。
(晋)