「財務省解体」デモが広がりを見せている。同省の役割を人工知能(AI)に問うと即座に、国家財政の管理、税制の構築、公債の管理、経済政策の立案、国際金融関係の調整、財政健全化の推進、などと列挙された。一つだに欠くことのできないものばかりだ。解体を叫び、それら政府の中枢機能を壊してしまえ、とは極端でもある。
だが、円安の定着による輸出企業とインバウンド(訪日客)事業者ら、また株高による資産運用者など一部が、事実上のバブル経済を謳歌(おうか)している。安定企業のサラリーマンらも、4月からの大幅賃上げに浴すると伝えられる。
一方、その対極に備蓄米放出を経ても品薄と暴騰が変わらないコメ、野菜の高値止まりなど、物価高騰から生活に圧迫を受け続ける庶民の層がある。持てる者との格差の顕在化、またその長期化に、「解体」との極論が出てきても不思議でない現実もあるのだ。
従って、「年収103万円の壁突破」を掲げ、手取りを増やす減税政策を訴える国民民主党が、若者らの心を捉えて支持率を伸ばすのはごく自然だ。それで少数与党の自公は、通常国会での予算成立に野党の協力を要することから、そのトレンドの党を巧みに引き入れ、便乗政策を組み上げられるか、注目された。「178万円への引き上げを目指す」との自公国幹事長による3党合意までは良かった。
だが石破茂首相は、パッとしなかった。予算審議では旧態依然の財源論を理由に取り付く島がなかった。歳入・歳出のバランス規定、財政法4条を金科玉条にする財務省の影響は明らかだ。年初には、消費増税の権化とも言われる野田佳彦代表率いる、立憲民主党との「大連立」を口にし、世論の反発から慌てて火消しに走った背景もある。
存在するマネーと経済を分配・調整する能力に欠け、そのための政治もできない石破氏と財務省が、国民の敵と思われても致し方ない。
財務省批判論客と言えば『財務省亡国論』を著した元財務官僚の高橋洋一氏が有名だが、最近、同氏のYouTubeチャンネルを電車内で視(み)ていたところ、覗(のぞ)き込んでいたらしい隣の若い女性がアドレスを教えてほしい、すごく関心のあることだから、と声を掛けてきた。国民の間への財務省批判の浸透ぶりを感じさせる一幕だった。
庶民による財務省への敵愾(てきがい)心の高まりには、「積極財政」という考え方の広がりも根底にある。「プライマリーバランス(PB)」健全化と、緊縮財政を前提とした長年の政府の財政政策に、近年ようやく抜本的に異なる選択肢があることが知られてきた。
それは、日本銀行による通貨発行、国会における政府予算の決定、経済活動と納税など、お金の循環と国民の経済生活において、ルールの本質が実は、未確定だったとも言えることなのだ。昨秋の総選挙では、明らかな敗北だったにもかかわらず石破氏が総裁辞任を怠った。自民党を取り巻く厳しい環境の中で、新総裁に名乗り出る者もいなかった。
3月にも国会で予算が成立すれば、石破降ろしも起ころうか、というところ、その際、新しい政権には積極財政を順次導入し、日本経済の新しいパラダイムを切り開き、強い日本を率いてほしいものだ。(駿馬)