ロシアのウクライナへの軍事侵攻が4年目に突入した。米露急接近のウクライナ停戦協議を巡り国際社会の懸念が高まっている。トランプ米大統領はウクライナの頭越しにロシアとの停戦交渉を推進し、「戦争を始めたのはウクライナだ」とか「ロシアをG8に復帰させるべき」とか「ゼレンスキー大統領は選挙を実施しない支持率4%の独裁者」とか「プーチン大統領が望めばウクライナ全土を占領できる」と連発、ウクライナに米露による戦争終結の道筋を受け入れるよう圧力を強めている。また、無償援助と思(おぼ)しきこれまでの軍事支援の見返りに5000億ドルの鉱物資源提供を要求した。全てに経済的利益が優先のトランプ流であるが実に品がない。
この突然な「ウクライナ・バッシング」はトランプ氏によるゼレンスキー氏に対する「パワハラ(いじめ)」に見える。米国の後ろ盾を失いたくないゼレンスキー氏は、低姿勢にて「正しい判断と支援継続」を要望し、じっと我慢して耐え忍んでいると察せられる。従来からの北大西洋条約機構(NATO)への加盟を強く望む一方で、ウクライナの安全が保証されるならば自らの辞任をと表明している。が、訪米時にトランプ氏と口論し資源権益の協定は見送った。
米露和平案は、まず「戦闘停止」、次に「ウクライナ大統領選の実施」、そして「最終合意の調印」の3段階と言われるが、「大統領選」とはゼレンスキー氏を引き摺(ず)り降ろし親露派政権に代えてロシア有利の合意調印を狙うのであろう。これは露骨な内政干渉ではないか。全土が戦災で荒廃し国民が国内外に避難している戦時下での大統領選は困難極まるが、実施されれば巧妙なロシアの選挙干渉がなされよう。
トランプ政権のロシア寄りの協議姿勢は欧米ウクライナ3者間の亀裂を招いている。プーチン氏は溝が更に深まることを期待する一方で、ロシアを油断させる高度な外交戦術だと疑っているに違いない。前言を翻し上塗りも躊躇(ちゅうちょ)しないトランプ流には予期せぬ落とし穴があり得ると警戒していよう。ディール(取引)メーカーを自認するトランプ氏は、どんな深謀遠慮策を用意しているのだろうか? 硬軟両様の交渉シナリオはいまだ見えないが、プーチン氏が臍(ほぞ)を噛(か)むどんでん返しを期待したいものである。
協議は始まったばかりであるが対露融和姿勢は将来に禍根を残す。停戦和平案はウクライナの降伏であってはならないし、ロシアの勝利であってはならない。人道無視の無差別攻撃による都市破壊、市民虐殺は重大な戦争犯罪である。法の支配を基調とし、力による現状変更を禁じる国際社会は、たとえ停戦協議が纏(まと)まったとしても国際秩序を無視したロシアの戦争犯罪を糾弾し続け制裁を緩めてはならない。ウクライナ支援を揺るぎなく継続し、ロシアのG8復帰を許してはならない。(遠望子)