トップコラム「勤め働く者」の国【上昇気流】

「勤め働く者」の国【上昇気流】

トランプ大統領(UPI)

トランプ氏が米国大統領に就任して1カ月近く経(た)った。米国はどう生まれ変わるのか、世界中が目を凝らしている。フランスの歴史学者、エマニュエル・トッド氏は米国民の精神性に注目している。

米国の産業力低下は「プロテスタント精神の消失」に起因する。勤勉な労働意欲、道徳規範が失われ、宗教なき精神の空白に虚無主義が巣くっている――。トッド氏は手厳しく米国の衰退の原因を説いていた(産経新聞1月10日付、三井美奈パリ支局長インタビュー)。

わが国はどうか。商業と宗教は古来、密接につながりを持ち、宗教的倫理観が商業活動の根にあった。「市」はもともと神が降臨する聖なる場、庭であり、物資を交換する前にまず豊穣を神に感謝する祈りを捧(ささ)げた(廣瀬久也著『信仰と商い』朱鷺書房)。

室町期の浄土真宗の僧、蓮如は禁欲・勤勉・節約の倫理を説き、江戸期の禅僧、鈴木正三は「商売も聖業である、仏法、世法に他ならず」と、働くことから得られる仕合わせ(幸福)を教えた。これを評論家の山本七平氏は「日本資本主義の精神」と呼んだ。

1万円札の顔となった渋沢栄一は「道義主義」で、営利の追求や資本蓄積も道義に合致したものでなければならないとした。日本の産業力の低下はこうした精神の消失に起因してはいまいか。

旧約聖書の「箴言」にはこうある。「勤め働く者の手はついに人を治める、怠る者は人に仕えるようになる」。国家もまた然(しか)りと思う。

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