
食べることが大好きだという友人がいて、よく体験を話してくれる。夏には信州にそばを食べに行ったとか、冬には茨城県の大洗にアンコウ鍋を食べに行ったとか、正月にはセリご飯を炊くとか。
その友人から誘いが来て「かに」専門の和食の店に案内された。何のことはない、気流子の家の近くにその店があった。入ると生け簀(す)にズワイガニと毛ガニがいた。タラバガニもいるはずだが、その日は留守。
カニ酢などの前菜に続いて「かにすき」となった。鍋の中に白菜やネギや白滝と共にズワイガニやカニつみれが入っている。カニを冷凍ばかりで食べていた経験を打ち破る美味(おい)しさだった。
「冬の味覚の王者」の名に恥じないうまさだ。また感嘆したのは、白醤油(しょうゆ)を使ったという秘伝のだし汁。他に何を使っているかは教えてくれない。が、食材との相性が抜群。普通は鰹節(かつおぶし)や昆布などを使っているが……。
汁のうまさとカニとの相性の良さを解明してくれるのは、地質学者の巽好幸さん。著書『「美食地質学」入門』(光文社)の中で、和食の秘密は水にあると語る。日本の水は軟水なので、昆布や鰹節のうまみ成分がよく抽出されるそうだ。
一方、西洋の水は硬水なので、スープの素(もと)のブイヨンには獣肉や鶏肉が使われ、臭みも取り除かれる。日本に肉食文化が広がらなかったのは、元来、日本の水が、獣料理には合わない軟水だったからで、グルメな古代人はそれをよく知っていたという。