韓国紙セゲイルボ・コラム「説往説来」

「デジタル遺産」は故人が生前にオンラインやスマートフォンのようなデジタル空間に残した痕跡だ。スマホの中の連絡先や写真、送受信したEメール、ソーシャルメディアの書き込み、ゲームの中のアイテムのような資料が該当する。事故など、突然の死によって家族を失った時、死亡者の知人に訃報を知らせたくても連絡先が分からず気をもむものだ。特にスマホの暗号は、本人でなければ分からず、いくら家族でもスマホの製造会社や通信会社がこれを知らせてくれない。SNSでもほとんど差がない。
国内には関連規定がまだない。セウォル号や梨泰院の事故など大型惨事が起こるたびにデジタル遺産制度導入の必要性が出てくるが、肝心の論議は遅々として進まない。個人情報保護法は「生きている個人」に対する情報だけを保護対象として規定しており、死亡した人のデータをどのように扱うべきかについては法的根拠がない。現在、ネイバー(NAVER)は遺族の要請に従って公開情報のバックアップ、カカオは追慕プロフィール保存サービスを行っているが、指定された代理人によるアカウント個人情報の管理オプションは提供していない。
先進国では、故人が残した記録をデジタル遺産と指定して相続が可能な制度を導入している。米国は2014年、デジタル資産にアクセスし、管理権限を信託できる法が制定され、48州で施行中だ。ドイツ連邦大法院(最高裁)は18年、事故で死亡した15歳少年のフェイスブックのアカウントに対して母親に接続権限を付与する判決を下した。このような趨勢(すうせい)に従ってアップルは21年、アカウントの所有者が遺産管理者を最大5人まで指定できるようにする「デジタル遺産プログラム」を導入した。
最近、済州空港の旅客機惨事の遺族たちが携帯電話の破損を理由に故人のカカオトークなどにある知人の連絡先を公開してほしいと要求した。政府がネイバー・カカオなどと協議したが、個人情報保護の原則に従って会員のIDとパスワードのようなアカウント情報を提供できなかった。遺族の要求が強まり、結局、今月9日、サムスン電子・アップル・カカオは政府と法令検討の末に「名前を除く電話番号」だけを遺族に提供することにした。1回だけの苦肉の策だ。デジタル遺産規制は緩和するのが正しい。ただ、故人の名誉が毀損(きそん)される副作用も見逃さないようにしよう。
(1月13日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです