
自宅から徒歩20分、富士を模した山田富士という丘がある。子供が小学生の頃、元旦に初日の出を拝みによく登った。わずか標高46㍍だが、空気が澄む冬場は冠雪富士がよく見える。
全国には富士という名を冠した山が数多く、日本人にとって富士山は特別な存在である。
有名なところでは、蝦夷富士(羊蹄山)、利尻富士(利尻山)、津軽富士(岩木山)、榛名富士(榛名山)、諏訪富士(蓼科山)…。正式名称より、富士を冠した俗名で呼ばれることが多い。
驚いたのは、正式名称が富士山という山もある。富士山の名が付く山の一覧(静岡県調べ)を見ると、栃木県に五つ、茨城県には六つもある。
子供が成人した後は山田富士に行くことはなくなったが、富士を拝する富士五湖周辺の低山に登るのが年末年始の慣例となった。
今年、初登りは山梨県富士河口湖町の精進湖北側にある三方分山に登った。精進湖、本栖湖周辺の景観は貞観6(864)年の富士山大噴火により形成されたと言われている。三方分山から見ると、富士山が大室山を抱いている姿に見えることから子抱き富士と呼ばれている。
精進湖の後ろに凛(りん)と立つ富士山は穏やかで、人を包み込む優しさがある。子を抱く富士山は日本人の心象風景と重なり、平和な気持ちになる。
年末には山中湖南側にある明神山に登った。山頂に真新しい戦没者慰霊碑、すぐ横に昭和天皇の弟・高松宮宣仁親王が昭和25年に公表された「平和に寄す」の一文が添えられていた。
「人間精神の根源的自覚による大きな愛の光のもとにあってこそ、はじめて、現在の不安と動揺の人類生活に、永遠の平和が招来されうることを確信する」
日本人が紡いできた和の心、平和への思いが伝わってくる。今年こそ、平和を招来できる自分でありたい。
(光)