トップコラム「陰の主役」田沼意次【上昇気流】

「陰の主役」田沼意次【上昇気流】

田沼意次銅像

江戸中期の稀代の版元、蔦屋重三郎を描いたNHK大河ドラマ「べらぼう」が始まった。合戦シーンもなく、もっぱら政治、文化、社会世相をどう盛り上げていくか今後の展開が見ものではある。

主役は蔦屋だが、「陰の主役」は時の老中で最高権力者の田沼意次だろう。臣下の立場で一時期を画して「田沼時代」と冠せられた人物は例がない。わずか20年ほどであったが、その施策が後の時代の文化を花開かせた。

意次生誕300年(2019年)の折、居城のあった静岡県牧之原市を訪れたことがある。わが郷土の偉人をぜひ大河ドラマの主人公にと市を挙げて誘致イベントが行われていた。市長も丁髷(ちょんまげ)、羽織袴で登場、市民と記念撮影するなど盛り上げた。

意次は長く「賄賂政治家」とのダーティーなイメージがあったが、近年は再評価が進んでいる。小紙でも40年ほど前、時代小説の大御所である村上元三氏による開明的政治家としての「田沼意次」を長期連載させていただいた。

初回のドラマでは、意次が蔦屋に重要な示唆を与える。蔦屋にその後の版元としての生き方に目覚めさせるという、まさに意次らしい「陰」としての役回りだ。

意次の居城は、政敵の松平定信が老中として権力を握った後、石垣まで全て破却され、面影はない。わずかに本丸跡などに史料館、小学校、高校が建つ。定信の怨念の激しさがうかがわれる。しかし、時代を先駆的に拓こうとした意次の思いは今に蘇ってこよう。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »