知人からの年賀状にこんな一文があった。「本年は皇紀2685年、私は後期高齢者」。皇紀と後期を引っ掛けて年齢を告げていた。
昨年は約200万人が75歳となり、「団塊の世代」(1947~49年生まれ)は全て後期高齢者に。国民の5人に1人が該当し、知人もその仲間入りを果たしたわけである。
古来、老いた男性は「翁(おきな)」、女性は「媼(おうな)」と呼ばれ、「神の座」に据えた。伝統芸能の能にある「翁」の「天下泰平。国土安穏。今日の御祈祷(ごきとう)なり」との謡は神歌である。
ユダヤの予言者モーセはこう言う。「あなたは白髪の人の前では、起立しなければならない。また老人を敬い、あなたの神を恐れなくてはならない」(『旧約聖書』の「レビ記」)。老人には神と同様に接せよと説いている。
もっともイエスは「幼子のようにならなくては天国に入れない」と教えているから、老人とて幼子から学ばなければ「天国の門」は開けないようだ。『竹取物語』の翁と媼はかぐや姫の出生から昇天まで見守っている。
仏文豪ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』の主人公、ジャン・ヴァルジャンは幼女コゼットと出会い、「年を取ると、自分があらゆる小さな子供たちの祖父のような気がする」と「優しい年老いた祖父である神」の心情を会得している。
国民の5人に1人が後期高齢者の日本は「神の満ちる国」に成り得る。そんなふうに思いを巡らすと「2025年問題」も何だか愉快になってきた。