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1960年1月4日、フランスの作家アルベール・カミュは、南仏の別荘からパリに向かう途中、自動車事故で亡くなった。それから65年、この20世紀を代表する作家の予見性に目を見張らされる。
新型コロナウイルスのパンデミックで、カミュの『ペスト』が改めて注目され読まれたのは記憶に新しい。右往左往する当局者、勇敢に新型コロナに立ち向かう医療従事者の姿は『ペスト』の中で既に描かれたものだった。
市民のペストとの戦いには、ナチス・ドイツへのレジスタンスも重ねられた。カミュはその最後で「ペスト菌は決して死ぬことも消滅することもない」とし、またどこかで頭をもたげてくるだろうと結んでいる。
ペスト菌には幾つかの寓意(ぐうい)があると思われるが、ナチスが消滅した後、カミュが厳しく批判したのは左翼全体主義だ。この問題では共産主義に傾いたサルトルと論争になった。
英作家ジョージ・オーウェルも『動物農場』でソ連のスターリン体制を風刺し、『1984』で未来の全体主義国家の脅威に警鐘を鳴らした。2人は45年ごろパリのカフェで会う約束をしていたが、カミュが当日体調を崩し果たせなかったという。
57年のノーベル文学賞受賞記念の演説でカミュは、自分たちの世代の任務は「世界の崩壊を防ぐこと」だと語った。いま世界は当時と同じような危機に直面している。核兵器を保有する全体主義、権威主義国家の現状変更の動きをカミュならどう言うだろう。