
読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡辺恒雄氏が亡くなった。歴代首相とも近い関係を築き政界に大きな影響力を持ち続けた。2021年放送のNHK「独占告白 渡辺恒雄~戦後政治はこうして作られた 平成編~」でその肉声が聞ける。
大越健介キャスターの「『ナベツネ』は政界のフィクサーだという声もありました」の質問に「そうかね。目の前に政治家がいて何かをやっている。『それ間違っているから、こっちの方やりなさいよ』とか言って忠告すると、言うこと聞くわね。それでうまくいきゃ、気持ちがいいじゃないですか」。
社会の木鐸(ぼくたく)としての役割を果たしているだけと言っているようだが、実際にはフィクサー的な働きもしてきた。それを可能にしたのは、渡辺氏個人の力だけでなく読売の部数が大きい。
社論を堂々展開し、情報の出し方で世論を誘導することもできる。しかし第四権力と言われるメディアは、立法、行政、司法が三権分立で権力集中を防いでいるのに対し、チェック機能が働きにくい。
とりわけ日本は「空気」が政治や社会を動かす。その空気をつくるのはまずメディアだ。メディアが正しく役割を果たさなければ、日本は簡単に誤った方向に進んでしまう危険を持つ。
SNSには不確かで無責任な情報も多いが、一方で既存メディアへのチェック機能を果たし始めている。第四権力の象徴とも言うべき渡辺氏の死に、時代の変化を感じさせられる。