政府の意図に反する対外的個人交渉を防ぐ、米「ローガン法」が理由で、来年1月就任の次期トランプ大統領には面会できない――。石破茂首相の外交力の無能ぶりを象徴する発表だった。
発表とは裏腹に、アルゼンチンのミレイ大統領を皮切りに連日のように、トランプ氏が各国首脳と会談を続ける様子が国際報道されている。国益を左右する首相動静の情報管理に携わる首相官邸、外務省は恥も外聞もないかのようだ。
石破氏肝煎りの「アジア版NATO」について、アリバイ如(ごと)きの新組織設置を指示し、防衛通と言われる印象こそ朧(おぼろ)げに残すが、構想が形になる見通しはゼロに近い。
トランプ氏当選に伴い、2025年を前に既にうねり始めた国際情勢の大変革に接しつつ、国家の安全保障また国民個々人の安全は、各自の意識を高め、互いに手を取り合い護(まも)っていくしかない、との強い危機感を持たされる。
中国では今年、「社会報復」を原因とする無差別殺傷事件が多発し、邦人の母子や通学児童が現地で切りつけられる事件にも巻き込まれた。しかし外務省からの注意喚起では、チベットやウイグル自治区を除きレベル1(十分注意)すら出ていない。
韓国では今月、反政府、野党勢力により行政と司法が機能麻痺(まひ)させられ、尹錫悦大統領が非常戒厳を発令した。それらの権限を大統領指揮下の軍に掌握させ、邦人観光客らを不安に陥れた。しかし、「重大な関心を持って事態を注視する」としながら、石破氏の口から、万が一の不測の事態にも邦人の安全には万全を期す、とは聞かれなかった。
国民一人一人が、各家庭生活において、かつ、遠からず子供世代を直撃することになる選択的夫婦別姓については、その導入賛成の割合を法務省が3割未満と調査発表している。だが、設問の仕方を変えた報道機関では7割以上と発表するなど、情報戦が激しい。
もとより先の衆院選では、この件を含むジェンダー問題を投票の判断基準にした国民は1%に満たない。だが、この問題への姿勢を政争の具に、首相に執拗(しつよう)に問う左派政党がある。
石破氏は党内議論を加速すると言う。だが、そもそも国民の関心の薄い問題に、推進する政治家らの声が大きいからと、傾注するスタイルには閉口する。メディアの批判を抑え、首相の座に生き残ろうとする処世の政治屋手法なのか。1億2千万日本国民を率いて世界と向き合う首相としての矜持(きょうじ)はないのか。
昨年、岸田文雄前首相が性急に推進したLGBT理解増進法、今後、石破政権で通過しかねない選択的夫婦別姓の法制化は、詰まるところ、古来、日本のかたちを作る、男系男子の皇統を揺さぶり得るのだ。「岸破」系譜を警戒せざるを得ない。
国民の安全、国のかたちを左右する課題に、首相としておよそ歴史的、全体的目配りができない石破氏。その下では、一人一人が意識を高め、大手メディアに頼らず自ら主体的に情報収集し判断力を磨く一方で、次第に世論形成力を高めるSNSによる情報交換も積極的に活用し、個人と国家の安全を護っていかねばならない。(駿馬)