久しぶりに回転寿司(ずし)屋に入った。入店から料金を支払って店を出るまで全く店員と言葉を交わさず、タッチパネルの操作に終始した。寿司を食べたというより、食べさせられたような印象しか残らなかった。
人手不足を補うため、ファミレスなどほとんどがタッチパネルでの注文になっている。慣れてはきたが、いつも味気無さを感じる。1人のときはなおさらだ。
寿司自体もスーパーなどで売られているのは、ロボットが握ったものがほとんどだ。最近はその性能も高くなってきたという。しかし、本当の握り寿司というものが分からなくならないか心配だ。
東京・銀座の「すきやばし次郎」創業者の小野二郎氏は、酢飯を外は固く中はフワーとするように握るのが、寿司を美味(おい)しくするポイントと言う。江戸時代の庶民のファストフードから始まった料理が洗練され、日本食の代表となるまでには、そんな職人たちの研究と研鑽(けんさん)があった。
もちろん、高級寿司店や料亭、レストランにしばしば行ける人はごくわずかだ。それでも日本の飲食店は、値段の割に美味しいものを提供し、バラエティーに富む。さらに、店員の親切なサービスは外国人観光客にも評価されている。
ただ美味いものを食べるのが食文化ではない。西洋では正餐(せいさん)の時には服装にもこだわるが、それに劣らぬ豊かな食文化が日本にはある。テレビなどは、どこの何が美味しいとかだけでなく、そういった文化をもっと伝えるべきだろう。