自民党が先月末、石破茂首相肝いりの「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」構想を議論する特命委員会(委員長=小野寺五典政調会長)を設置した。当面、有識者ヒアリングなどを行い、アジア安保の在り方を首相に提言するという。
この構想を巡っては米国や東南アジア諸国連合(ASEAN)各国、インドには否定的な見解が多いというが、むしろ戸惑いの方ではないか。構想は首相が自民党総裁選前に明らかにしたもので自民党や、まして政府の考えではない。
ジャーナリストの櫻井よしこさんは中国に対する位置付けが曖昧だと批判するなど、保守派からの懸念は根強い。一方、左派リベラル方面からは日本の軍事的役割の拡大に道を開くなどと、これまた警戒する。
アジアとNATOは地勢的にも地域の文化的背景も異なるというのが、構想懐疑論の根底にある。だが、ウクライナ戦争が台湾問題に波及したことを考えると、日本もグローバルな危機として対応する必要がある。
故安倍晋三元首相も唱えた「核共有論」についても、日米同盟強化を前提とするものの、わが国自身の安全を確保する上で喫緊の課題だ。トランプ政権第2期で日本の自主性がさらに問われる。
安倍氏が「自由で開かれたインド太平洋」構想で西側諸国を牽引したように、従来の米国の対日要請・要求に応えてきた姿勢から脱却することが不可欠だ。「安保タダ乗り論」の負い目があってはならない。