トップコラムノートルダム大聖堂再開へ【上昇気流】

ノートルダム大聖堂再開へ【上昇気流】

再開を控えたノートルダム大聖堂=12月2日、パリ(AFP時事)

フランスのパリにあるノートルダム大聖堂は2019年、大規模火災で被害を受けたが、修復作業が終わり、今月7日に外国首脳らを招いて再開式典が催されるという。翌8日にはミサの後、一般公開される。

ノートルダムは「私たちの貴婦人」という意味だ。中世の騎士たちは貴婦人に仕え、あがめ、ひざまずいた。スペインの作家セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』にも主人公のあがめるドルシネア姫が登場する。

その貴婦人たちの最高の座にあるのが、天の女王、最も美しい女性である聖母だ。歴史学者の故木間瀬精三によると、西欧キリスト教文化が他と異なった点が一つあった。

近東のキリスト教では、最後まで、世俗世界を積極的に肯定するという形は出てこなかったが、西欧では社会全般にわたって聖と俗が互いに相寄り、近づき、一つに溶け合っていく。12世紀から13世紀にかけての時代だ。

近東の聖母は神の母でその超絶性が強調されたが、西欧では人間の生身の女性のうちに聖母の似姿を見るようになる。このことは女性の地位を高め、人間の尊厳の理念にもつながっていった。

では現代はどうか。小紙「フランス美術事情」(11月16日付)によると、フランスでは政教分離「ライシテ」によって宗教そのものが社会の隅に追いやられ、神を否定する芸術が圧倒的に増えた。「信仰が弱まれば建物も魂の抜け殻になる」というのだ。聖俗のバランスは消え、俗だけとなってしまった。

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