10日に日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞する。広島・長崎の被爆者の立場から核兵器廃絶を訴え続け核兵器禁止条約成立の推進力となった実績が評価されたもので心から祝福したい。
「核兵器なき世界の実現」は人類共通の願いである。しかし、核保有国は核の巨大な破壊力が国家の安全に不可欠として手放すことはなく、相互破壊となる核の手詰まり・恐怖の均衡によって、かろうじて核兵器が使われていない現実がある。
しかし此処(ここ)に来て、俄(にわ)かに核使用の敷居が低下している。プーチン露大統領はウクライナ侵攻直後から米欧による武器供与を牽制(けんせい)して「核の恫喝(どうかつ)」を行い、ベラルーシにも戦術核兵器を新たに配備し、共同の戦術核演習を実施している。11月19日にロシアは新「核ドクトリン」を発表した。
核兵器使用の条件を大幅に引き下げ、ウクライナを支援する米欧を念頭に、支援は共同攻撃とみなし戦争当事国でなくても核抑止の対象だと脅した。
更に21日には核弾頭を搭載できる新型中距離弾道ミサイルを撃ち込んだ。ウクライナの米欧供与のミサイルによるロシア領内への攻撃開始と相俟(あいま)って核使用のリスクはさらに高まったと危惧される。
より危険なのが、核・ミサイル開発に邁進(まいしん)する金正恩総書記の北朝鮮である。2021年の「国防5カ年計画」の筆頭に掲げているのが、核兵器の小型・軽量化、戦術核兵器化である。核戦力は戦争抑止に留(とど)まらず、相手の戦力を打撃・一掃する戦争遂行の重要兵器であるとしている。
今年に入って金正恩氏は韓国を、統一を目指す同じ民族から第一の敵対国へと転換し、挑発姿勢を強めている。そして核の先制使用も辞さないとして、核搭載可能な「新型戦術ミサイル」の発射や「戦術核運用部隊」が戦術核兵器の運用要領等を演練したと公表し、近く実戦配備すると強調している。
攻撃目標は韓国軍の軍事施設だけでなく、米軍の介入拡大を制止するため在韓、在日米軍基地も含まれよう。
米韓は昨年、北朝鮮の核への対応が喫緊の課題だとして、核協議グループ(NCG)を立ち上げた。今月4日から第1回目のNCG机上演習(TTX)を実施し、北朝鮮の核攻撃への対応を検証する。
韓国軍は北朝鮮のミサイル攻撃への対応として「発射の兆候を捉えた場合の先制攻撃」「発射された場合の迎撃」「攻撃を受けた場合の反撃」と3段階の態勢構築を進めており、陸海空を統合的に運用する「戦略司令部」を設置して、抑止力と対処力を強化する方針だとされる。
このように危険な露朝が「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結して軍事協力を進展させており、隣接する日韓両国にとっては極めて重大な脅威である。「核には核」、核の保有によって相手の核使用を制止するのが核抑止戦略であるが、保有しない日韓両国は米国の核の傘に入って拡大抑止の立場をとっている。
韓国では核攻撃から国民を保護するための訓練も計画されているという。
被爆国の核アレルギーが卓越するわが国にあっても、拡大抑止が破れ戦術核攻撃に晒(さら)される事態を想定して、日米共同で、官民一体となった対応態勢を早急に整える必要がある。「迫りくる最悪事態を考え、備えよ」と警鐘を鳴らしたい。(遠望子)