IT化で国を超え大量の通信データがやりとりされるようになったが、データの95%は海底ケーブルを通して送られている。人工衛星通信の割合はごくわずかだ。
フランスの思想家ジャック・アタリ氏が『海の歴史』(プレジデント社)で、海底ケーブルの保全の重要性を指摘している。特に有事の際に狙われるだろうことは容易に想像がつく。
バルト海で中国の商船が、スウェーデンとリトアニア、ドイツとフィンランドを結ぶ海底ケーブルを故意に切断した疑いが持たれ捜査の対象となっている。この貨物船は11月15日にロシアのバルト海沿岸のウスチルガ港を出港しており、ロシアの関与も疑われている。
米メディアなどによると、中国船は荒れた天候でもないのに、錨(いかり)を下ろしたまま数時間にわたって航行を続けた。速度が落ちていることに気付かないはずはなく、ケーブル切断のためと専門家はみている。
ロシアの仕掛ける「ハイブリッド戦争」に中国商船が手を貸した可能性は低くない。このような破壊活動の危機を対岸の火事と考えるべきではない。ジャーナリストの吉村剛史氏は「月刊Hanada」10月号の論文「南西諸島海底ケーブルが丸裸同然」で、その脆弱(ぜいじゃく)性に警鐘を鳴らしている。
沖縄近海では光ファイバー海底ケーブルに中国製の盗聴器が設置されているのも発見されている。ケーブル切断は盗聴器の設置より遥(はる)かに容易だ。海底での戦いから目を逸らせてはならない。