「辛抱してやれば、賜杯は抱けると実感できた」――。大関琴桜が九州場所で悲願の初優勝を果たした。初場所の優勝決定戦で横綱照ノ富士に敗れ、新鋭の大の里にも2度優勝をさらわれた。苦しさに耐えて掴(つか)んだ優勝だ。
大関に昇進し1場所、父・佐渡ケ嶽親方の四股名で大関琴ノ若として土俵に上がり、翌5月場所から祖父の元横綱琴桜の四股名を継承した。先代は立ち合いの激しいぶちかましから一気に相手を土俵の外へ持っていく相撲。
そこから猛牛の異名が付いた。決して大柄な力士ではなかったが、瞬発力そして土俵での気迫が凄(すご)かった。これに対し琴桜は、父譲りの恵まれた体格が大きな武器。その体格を生かし、右四つでの寄り、また離れての突き押しも威力があり、相撲の幅は広い。
さらに大きな体に似ず体が柔らかいのも特徴だ。突きなど相手の攻撃を受け止め、土俵際での攻防でも勝ちを手にすることが今場所も多かった。
とはいえ、最後にものをいうのはメンタルの強さ、精神力だ。闘志だけではなく、激しい攻防の中でも冷静さを失わない。今場所はそんな心の強さと安定感が確実に増していた。
先代からは、土俵に上がったら「鬼になれ」と言われたという。「体」と「技」を父から受け継ぎ、「心」は主に祖父から学んだ。そういう意味では、文字通りの角界のプリンスと言っていい。先代の背中を追い、さらにそれを超える活躍を、多くの相撲ファンが期待している。