
米国人と結婚し、ニューヨークに住む知り合いのAさん(女性)が一時帰国するというので、東京駅で会うことになった。といっても、実際に会うのは初めてだ。仕事の関係で、1年余りリモートで交流していたのだ。待ち合わせ場所の「銀の鈴」で私を見つけたAさんは「森さ~ん」と叫びながら、両手を広げてハグをしてきた。私はハグなどしたことのない“昭和男”。一瞬、戸惑ったが、彼女のしぐさがあまりに自然だったので、軽く抱き締め彼女の背中を軽くたたいた。
共通の知り合いの男性も一緒にAさんを迎えた。彼女は彼ともハグしてあいさつを交わしていた。回りには大勢の旅行客がいたが、われわれのハグに奇異な目を向ける人はいなかった。若い頃は、男女が人前でハグする光景は見たことがなかったし、まさか自分がそれをやるとは思いも寄らなかった。「時代は変わったものだ」と思った。
いや、待てよ、日本でもハグはもう珍しいことでなく、私が遅れているにすぎないのかもしれない。それにしても、無骨な男2人を違和感なくハグに引き込むのだから、さすが長年米国で暮らす女性だな、と感心した。
ここまで書いて、女性と人前でハグしたことが過去に1度あったことを思い出した。25年前、ワシントン特派員を終えて帰国する時、家族ぐるみで付き合っていた女性に別れのあいさつをすると、「森さん、ハグしていいですか」と聞いてきたので「いいよ」と言ってハグし合った。日本滞在経験があった彼女は日本にハグの習慣がないことを知っていた。
国際結婚や海外生活経験のある日本人が増えるにつれハグへの抵抗感が薄れつつあるのは確かだろう。一方で、セクハラに敏感な今、親密な人間関係を避ける若者もいると聞く。ちょっと戸惑いながらも、昭和男でさえできるのだから、海外からやって来た人が手を広げた時、自然に応じるくらいの心のゆとりはあった方がいい。
(森)