石破茂首相は、衆院選で自ら掲げた自公過半数クリアの基準を大きく割り込み、大敗に沈んだ。だが退(ひ)き際悪く、首相の座にしがみついている。「ルール」を強調しながら堂々と踏み外し、政治の信頼回復に逆行する罪は重い。
野田佳彦代表率いる立憲民主も、1・5倍(98から148)に伸ばした議席増の蓋(ふた)を開けると、比例代表の総得票で前回選挙から横ばい。前々代表が引責辞任した3年前から、国民の支持は増えていなかったという事実を突き付けられた。これでは野田氏が訴えた政権交代と、それを根拠とした政治改革は無理だ。
玉木雄一郎代表の国民民主は議席数28で、日本維新の会の38に続き第4党。衆院全465議席に対しては、6%にすぎない。だが議席を4倍増させ今日、政界を動かす勢いがある。
所得税の課税が始まる年収基準の103万円。これを引き上げ、低所得者に手取り増をもたらす政策を公約の柱に、選挙を戦った結果だ。
特筆すべきは、20~30代の政党別得票率でトップを獲得したことだ。
玉木氏は選挙後の他党交渉で、石破、野田両氏への首相指名協力を拒んだ。政策ごとの協力を国会で模索し、党の公約実現を飽くまで最優先にして、突き進む姿勢を明確にしている。首相就任を条件に、自公国としての連立政権に加わる選択肢も放棄した。むしろ投票した有権者の一票を、政策に体現させようと専心している。その一貫した姿勢は好感が持てる。
党代表としてXやYouTubeでも積極発信し、有権者のコメントを直(じか)に確認しながら、選挙後も彼らに向き合ってフォローしている。
有効な取り組みだ。政治を巡る報道は今日、「裏金」に代表される大手メディア主導の要らぬネガティブキャンペーンを代表例に、国民を誤導する印象が強い。
常に歪(ゆが)んだ言説が混在する情報空間において、国会論戦や記者会見以外に、代表でも幹事長でも良いが、政党が普段から自身の言葉で政策を伝え、国民への親身な姿勢で説明に努める姿は、明日に向け、健全かつ効率的な政治世論形成の土台となろう。
政治報道といえば、米大統領選でのトランプ前大統領の返り咲きにあたり、米民主党に前のめりのコメンテーター陣の期待が外れ、日本のテレビワイドショーは「お通夜」状態と揶揄(やゆ)された。
代表的SNSであるXのオーナーで、トランプ氏を応援したイーロン・マスク氏は、「選挙戦の現実はX上で明らか。だが多くの旧来メディアは米国民を騙(だま)した。これからは、あなたたちがメディアだ」と、個々人が事実と正論をSNS投稿することによる、言論空間づくりを呼び掛けている。
若者の投票を引き寄せ、政策の実現を前面に出して政局で立ち回り、SNSでの直接対話でフォローする玉木氏。彼がこの先、日本の政党政治のリテラシー向上を牽引(けんいん)し、国民の政治参加の質的、量的向上に寄与できるか注目だ。
政治の信頼回復とともに、何よりも政治が日本の次世代と向き合い、今日迫りくる少子化問題を当事者である彼らと共有し、真剣な議論を通じて本質的な解決を模索していきたいものだ。玉木氏は若者を政治的に一層、覚醒させよ。(駿馬)