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【上昇気流】雪を頂いてこそ富士

富士山

富士山の初冠雪を甲府地方気象台が発表した。平年の1カ月余遅れ、130年前に統計を取り始めてから最も遅い観測という。今年は秋になっても暑い日が続いたからだろう。

葛飾北斎描く「富嶽(ふがく)三十六景」を見ても、ほとんどが雪を頂いた富士を描いている。有名な「神奈川沖浪裏(なみうら)」で大波の向こうに富士山が三角波のように見えるのも頂上に雪を頂いているからだ。

麓まで白い冬の富士も多く描かれている。冬の早朝、暗いうちに釣り場へ向かうため小田原辺りを車で運転している時、暗闇にほの白い富士が浮かび上がったのを見たことがある。神がその姿を現したような畏怖を覚えたものだ。

一方、「三十六景」で明らかに雪のない夏富士と分かるのは「甲州三嶌越(みしまごえ)」で群青色に描かれている。「甲州三坂水面(みさかのすいめん)」は、夏富士なのに河口湖に映った富士は雪を被っているのがおかしい。

雪を頂いてこそ富士、という観念が日本人にはあるようだ。太宰治の「富嶽百景」でも、御坂峠(みさかとうげ)の茶屋の娘に太宰が「やはり、富士は、雪が降らなければ、だめなものだ」ともっともらしく説く場面がある。子供たちに富士山の絵を描かせれば大体雪を頂いている。

雪のない富士は夏の終わりの9月ごろのみで、その期間は長くない。しかし、それは今までの話。このまま地球温暖化が進めば、雪を頂く富士を見る期間が短くなるのでは、という心配も起こる。温暖化への関心を絶やさないためにも富士の雪は重要だ。

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