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【上昇気流】編集者の仕事とは

「うんとか、すんとか、言ってくれなくちゃ、書く気がしねぇ。もう原稿は書かんぞ」とその日、作家の村上元三さんに叱られた。連載小説「田沼意次」の原稿を受け取り、ゲラにして村上さん宅に持参した時のこと。

気流子が編集者になったばかりの若い日の出来事で、何をすべきなのかを老大家が教えてくれた。以来、会うたびに話題を準備していった。小説家の編集を担当した場合、仕事は多岐にわたる。。

「作家の相談に乗り、アドバイスをし、公私にわたるサポートをするのが編集者」。東京・JR三鷹駅南口の前にある三鷹市美術ギャラリー太宰治展示室で「石井立(いしいたつ)が遺したもの」が開催中(12月1日まで)。

石井は筑摩書房の編集者で、太宰を担当。編集者の仕事について解説してあった。「石井立文庫」が同市に寄贈されたのを記念し、この編集者と太宰との関係を紹介している。

展示資料の一つが、石井の所有していた『井伏鱒二選集』の編集に関する太宰の草案のいくつかだ。石井は、井伏の選集も担当していた。太宰の晩年、井伏との関係は気まずいものになっていく。

だが、東京大学名誉教授・安藤宏さんの解説「隠れたキーパーソン」によると、石井は「微妙な関係を取り持ち、両者が決定的に決裂するのを防ぐ、蝶つがいのような役割を果たしていた」。太宰も井伏も、石井を深く信頼していたのだ。編集者の喜びは「できるかぎりよき本」を作ること、と石井は言葉を残した。

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