Homeコラム【羅針盤】日本人精神の拠り所

【羅針盤】日本人精神の拠り所

ある朝、靖国神社の秋季例大祭に参列するため、正面の大鳥居から本殿に向かった。靖国神社へは、新婚後1年も経(た)たずに出征し、わが子(筆者)を抱くことなく沖縄で戦死した父を偲(しの)んで機会あるごとに参拝しているが、今回は、思いがけず嬉(うれ)しいことに触れて清々(すがすが)しい気持ちになった。

秋季例大祭の3日目で、正月や終戦の日とは比較にならないが、それなりの参拝者が訪れていた。老若男女の身なりはともかく殆(ほとん)どの人が礼儀正しく大鳥居や神門をくぐる前に一礼のお辞儀をし、帰り際にも向き直って一礼していた。学校で教わったわけでもなく敬虔(けいけん)な参拝客の所作を見習っているうちに定着したのであろうか。日本の伝統文化風習が静かに自然に受け継がれていると感じて嬉しくなった。

そして本殿に昇殿して秋季例大祭第三日祭に参列した。最後列であったので500~600名と思われる参列者を後ろから眺めることができた。

これまでの参列者の多くは私のような遺児、遺族と思われる方々が殆どで、後ろから見れば逆さ蛍(禿〈は〉げ頭)か白髪の老人が普通だったのに、今回は髪が黒々とした若い人が多数いるのに気が付いた。土曜日であった所為(せい)でもあろうか?

隣に座った40代と思(おぼ)しき人に「どなたかの御遺族ですか?」と尋ねると「いいえ遺族ではありません。歴史が好きなのです。今の私たちがあるのは御英霊のお陰だと思っています」との返事に感銘した。

靖国神社には、国難の戦いに立ち向かい、国のため、家族のために尊い命を捧(ささ)げられた方々246万6000余柱の御霊(みたま)が御祭神として祀(まつ)られている。明治維新以後の日本の戦争の歴史や事象、そして英霊の遺品や手紙が展示されている靖国神社「遊就館」を見学して心を打たれ、今ある日本人としての自分に目覚めた由(よし)であった。

戦争の実体験、記憶はもとより伝えられるべき戦争の意識が薄れて行く現代世情のなかで、ごく普通の人が靖国神社という特別な存在に触れて極めて自然に日本人としての自覚と誇りが心の底から湧き上がってきたのであろう、これこそが日本人精神への回帰の鍵ではないかと一人合点した。一人でも多くの日本人が靖国神社と遊就館を訪れて、そのように感化されてほしいと願わずにはいられない。

また世界にあって、わが国に無いのが国家、民族としての歴史博物館である。テーマ別の歴史博物館は全国に散在するが、古代から現代に至る日本が歩んだ歴史と事象、世情を総合的に展示・解説した施設がなく、特に戦争テーマの博物館が少ない。

小学生から高校生の若いうちに正しい歴史教育の機会を増やしてこそ、真の国民教育ができるのであり、日本人として自覚と自尊心を高め、国際人としての幅広い教養と視野を涵養(かんよう)できるのだと思う。

国難に立ち向かい、国のため戦った英霊を祀る靖国神社は、日本人精神の拠(よ)り所(どころ)である。一日も早く、国の追悼施設に指定し、他国の干渉を気にすることなく天皇陛下や総理大臣が粛々と参拝できるようにすることこそ、今の日本に求められている政治課題なのである。(遠望子)

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