晩秋のこの時期、土手や野原を見ると、黄色がやたらと目に飛び込んでくる。今を盛りと咲く背高泡立草(セイタカアワダチソウ)だ。子供の頃は、真っ白なススキが秋風を受けて、優雅に揺れる風景がほとんどだったが、今ではそれが一変した。この背高泡立草はその繁殖力がすさまじく、環境省では「生態系被害防止外来種リスト」に載せて、「根こそぎ掘り起こす」と徹底した駆除を呼び掛けるほどだ。どうしてか。
その説明を見ると、「繁殖を始めた場所では日本の在来植物の姿はほとんど見えなくなり、何年もしないうちにセイタカアワダチソウだけが繁茂する」と警告している。
背高泡立草をあえて「ヤツ」と表現すると、ヤツは「種子と地下茎の両方で増え、在来の植物とは比べ物にならない旺盛な繁殖力を持っています。根と地下茎からはアレロパシー物質(他の植物の種子発芽や成長を妨げる物質)を出して他の植物が生育することを妨げ、自身は地下茎からどんどんと芽を出して増えて」いくという。植物の中で、これほど「自己中」の塊のようなものは他にあるだろうか。
ヤツの形状を見ても、葉先がアニメに登場する悪魔(サタン)の尻尾に似ているような気がしてならない。自然はどうしてこんな「自己中」の塊のような植物を誕生させたのだろうか。
ある意味、人間社会の縮図に思えなくもないが、堕落した人間社会とは違って、動植物界は堕落していないと言われる。ヤツが存在する意義があるとすれば、今後の研究で、旺盛な生命力が人間生活に役立つことが出てくるのではないかと、秘かに期待しているが、果たしてどうだろうか。民間療法では乾燥させて湿布薬に使われてきた。
(仁)