
子供の頃に読んだ伝記は今も強く印象に残っている。例えば徳川家康。まだ幼い駿府での人質時代、彼は河原で大小二つの少年グループが川を挟んで石投げの合戦をするのを見て、少ない人数のグループの方が最後には勝つと断言した。実際その通りになったという。
多い方は数に任せていたずらに投げるのに対し、少ない方は一致結束して集中する様を見て確信したのだ。家康のその後の生き方の片鱗をうかがわせる。この種の伝記は子供心にも大げさに言えば「道徳」の原点と言えまいか。
今は学校で道徳教育が具体的にどう行われているか詳しくはない。が、ヘレン・ケラーやナイチンゲール、そして新渡戸稲造らは今もなじみが多い。時代の変化だろうか、近年の五輪選手も必ず入っているようだ。
数年前だが、宮崎県の高鍋町という町を訪れた時、駅ホーム正面に、わが国最初の孤児院創設者、石井十次の記念碑があった。地元偉人を誇る啓蒙活動が必要だろう。
一方で同じ郷土が生んだ最後の連合艦隊司令長官の小澤治三郎提督は、古い生家を訪ねるのに苦労したほど近所でも知る人は少なかった。その後、生家の復活の動きもあるようだが、文教と軍事の違いなのだろうか。
歴史の教訓に学び、先人の言葉が心に響くものは得難い。もっとも強制で教えるものではないが、今後の生き方や指針を涵養する上でも、まずは郷土における学校の場でもあるいは地域教育の場でも伝記読書を推奨したいものだ。