トップコラム【上昇気流】名優・西田敏行さん逝く

【上昇気流】名優・西田敏行さん逝く

西田敏行さん

「秋の日はつるべ落とし」とはよく言ったものである。夕暮れを眺める暇もなく日々、暗くなる時間が早まる。だからこそ「読書の秋」とは思うが、長い夜は寝るに限る。米大リーグの大谷翔平選手によれば、寝れば寝るほどコンディションが良くなるそうだ。

ところが、嫌な寝入りがある。金縛りである。意識があるのに体が動かず焦ってしまう。眠りの浅いレム睡眠で起こりやすく、脳がまだ活発に活動しているのに体幹と手足を動かせなくなる現象だという。

気流子は学生時代の京都で金縛りに遭遇した。下宿先の古家で眠りに就くや体が固まり、目の前に人の首が転がってきた。ざんばら髪の武士で「罪なく斬首された」と訴える。暫(しばら)くして金縛りから脱したものの、武士は語り続けている。それは何と、自分の口から発せられていた。

三谷幸喜監督の映画「ステキな金縛り」(2011年公開)では俳優の西田敏行さんが落ち武者の幽霊役を演じている。その名を更科(さらしな)六兵衛といったが、気流子の金縛りの武士は「六左衛門」と名乗った。その記憶が鮮やかだったので映像の六兵衛と見比べた。

優しくて可笑(おか)しくて、嫌な金縛りを愉快な出来事に換えてくれたのが西田さんである。それが突然、逝ってしまわれた。

サービス精神の旺盛な方だったから金縛りで会いに来られるかもしれない。ファンならば望むところだが、それは適(かな)わぬ夢か。いや、ひょっとして――。ご冥福をお祈りします。

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